看護師が医療業界から介護業界へ転職するケースは、近年増加してます。さまざまな理由や背景があります。この転職には多くのメリットがありますが、同時に多くの課題やデメリットも存在します。以下に、実例や考察を交えて詳しく説明します。
背景と理由
少子高齢化社会
日本は少子高齢化が進んでおり、高齢者の介護ニーズが急速に増加しています。これに伴い、介護業界では経験豊富な看護師の需要が高まっています。看護師は医療知識と技術を持ち、介護現場で高齢者の健康管理や医療ケアを提供することが期待されています。有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、老健など、高齢者が集まる場所の多くで看護師を必要としています。
働き方の見直し
医療現場での勤務はシフト制や夜勤が多く、肉体的・精神的な負担が大きいことがあります。休みが不規則であり、勤務時間も不規則となると、身体的、精神的に疲れてしまう方が多いのではないでしょうか。高齢化というキーワードは今や誰もが知っている日本の事情です。介護業界への転職者も多くなりました。より規則的な勤務時間や休日、家庭や自分時間との両立がしやすい環境を求めています。働き方の見直しを医療から介護へ職場をシフトすることで改善しようと試みる方も見受けます。
実例
実例1: 総合病院から特別養護老人ホームへ
ある看護師は、総合病院の急性期病棟で働いていましたが、夜勤や過重労働に疲れ果て、家庭との時間を大切にしたいと考えるようになりました。転職を決意し、特別養護老人ホームでの日勤中心の仕事に就きました。そこでの仕事は、入所者の健康管理や医療的ケアの提供、家族とのコミュニケーションが主な業務です。彼女は、よりゆったりとしたペースで働けることに満足しており、入所者との信頼関係を築くことにも喜びを感じています。今は、その特養で医務室の看護主任をしています。
実例2: 訪問看護からデイサービスセンターへ
別の看護師は、訪問看護ステーションで働いていましたが、移動の多さや一人での対応に限界を感じていました。デイサービスセンターに転職した彼女は、固定された施設で働けるため、移動の負担が軽減され、チームで利用者のケアを行うことで孤立感もなくなりました。オンコールからも解放され、日中のみの勤務で生活リズムも整い、プライベートの時間も増えました。給料は下がったとのことです。
業務としては、利用者のバイタルチェックや内服管理、服薬介助、血糖測定など看護ではなく、健康管理を提供しています。毎回通ってきてくれる地域の高齢者が大好きだと言ってました。
メリット
専門知識の活用
看護師は医療の専門知識と技術を持っているため、介護業界で即戦力として活躍できます。例えば、褥瘡(じょくそう)の予防や管理、糖尿病のコントロール、薬の管理など、医療的なケアが必要な高齢者に対して、的確な対応が可能です。
キャリアの幅広さ
介護業界には、多様な職場が存在します。特別養護老人ホーム、デイサービス、グループホーム、訪問介護など、さまざまな施設やサービス形態があり、自分のライフスタイルやキャリアプランに合わせた働き方を選択できます。
仕事のやりがい
介護の現場では、長期的な関係を築きながら利用者一人ひとりに寄り添ったケアを提供することができます。これは、急性期医療の現場とは異なり、看護師としての人間関係を深め、より充実した職業人生を送ることができる大きな魅力です。
課題
医療と介護の違い
医療現場と介護現場では、業務内容や求められるスキルが異なるため、転職初期には戸惑うことがあるかもしれません。介護は生活支援が中心であり、医療とは異なるケアのアプローチが必要です。
介護現場では、利用者の日常生活を支援し、健康管理を行うことが主な業務となります。具体的には次のような業務が含まれます。
- 生活援助: 食事、入浴、排泄、着替えなどの日常生活の支援。
- 健康管理: バイタルサインの測定と記録、体調のチェック。
- 医療的ケア: 必要に応じて、服薬管理や簡単な医療処置(褥瘡の予防とケアなど)。
- レクリエーション: 利用者の心身の健康を維持するためのレクリエーション活動の企画と実施。
- 家族とのコミュニケーション: 利用者の状態について家族に説明し、情報共有を行う。
介護現場では、看護師が行える医療行為が制限される場合が多く、自分の専門知識や技術を十分に活かせないと感じることがあります。例えば、点滴や採血といった医療処置は少なく、日常生活の支援が中心となるため、医療現場で培ったスキルを発揮する機会が減るかもしれません。
また、日常的なケアやサポートが中心であり、医療現場のような緊張感や緊急性が少ないため、仕事が単調に感じることがあります。特に急性期医療に慣れている看護師にとって、ペースの違いや刺激の少なさがモチベーションの低下につながることがあります。
労働環境の差異
医療機関と比べて介護施設の労働環境は、必ずしも良好とは限りません。介護業界全体の人手不足や賃金の問題は依然として課題であり、看護師が満足する労働環境を提供するためには、業界全体の改善が必要です。しかし、医療業界では得られなかった日勤中心の勤務、規則的な勤務時間、週末や祝日の休みが手に入ります。
介護業界全体で人手不足が深刻な問題となっており、その結果、看護師一人に対する負担が大きくなることがあります。人手不足により、一人のスタッフが多くの利用者をケアする必要があり、過重労働につながることがあります。
また、看護師としての専門知識と介護スタッフとの役割の違いから、コミュニケーションや連携に課題が生じることがあります。特に、介護スタッフとの間で業務分担やケアの方針に関する意見の違いがある場合、職場でのストレスや摩擦が増えることがあります。
まとめ
看護師が医療業界から介護業界へ転職することは、少子高齢化社会の中でますます重要なテーマとなっています。この転職には、医療知識を活かして介護の現場で即戦力として活躍できるメリットがある一方で、労働環境の差異や新たなスキル習得の必要性などの課題も存在します。
また、給与の低下、役割の変化、人間関係の課題、精神的な負担、キャリアの停滞などのデメリットが存在します。これらのデメリットを理解し、対策を講じることが重要です。
例えば、給与に関しては、労働時間の調整や福利厚生の確認を行うこと、役割の変化に関しては、新しいスキルの習得や自己研鑽を続けること、人間関係の課題に対しては、コミュニケーションスキルの向上や職場環境の改善を図ることが考えられます。精神的な負担を軽減するためには、メンタルヘルスケアの取り組みやサポート体制の整備が必要です。また、キャリアの停滞を防ぐためには、継続的な学習や研修の参加、キャリアパスの明確化が重要となります。
看護師自身が介護業界でのデメリットを理解し、自分のライフスタイルやキャリア目標に合った選択を行うことで、長期的な職業満足度と成長を実現することができるでしょう。