1. はじめに
近年、医療技術の進歩や社会構造の変化に伴い、終末期医療のあり方に対する関心が高まっています。特に「自宅での死」を選ぶ人が増えるのか、という問いは重要なテーマとなっています。本稿では、自宅での死が増加する可能性について、社会的、医療的、個人的な観点から考察します。
2. 社会的要因
- 高齢化社会: 高齢化社会が進行する中、高齢者人口が増加し、多様な終末期ケアのニーズが高まっています。日本では「団塊の世代」が75歳以上になる2025年問題が注目されていますが、多くの高齢者が病院ではなく、自宅や地域でのケアを希望する傾向が強まってきています。
- 在宅医療の整備: 在宅介護、在宅医療の整備が進み、自宅でのケアが可能な環境が整いつつあります。訪問診療、訪問看護、訪問介護などのサービスが日本全国で普及し、自宅でも介護や医療を受けられるようになりました。ご自宅で過ごしながら最期を過ごす方も増えています。
- 政策の推進: 政府や自治体も在宅医療を推進する政策を打ち出しています。日本では、「地域包括ケアシステム」の構築が進められており、住み慣れた地域で最後まで生活できるような体制が整備されています。
3. 医療的要因
- 医療技術の進歩: 医療技術の進歩により、ハンディー化が進み自宅でも高度な医療ケアが受けられるようになっています。例えば、在宅酸素療法や在宅点滴などが可能となり、病院にいなくても必要な治療が受けられます。また、バイタルなども遠隔で確認する事も可能になってきています。
また、薬局も在宅医療に参入していますので、ご自宅で服薬指導を受けたり、薬を受け取れたりと24時間体制の薬局も増加しています。 - 緩和ケアの充実: 緩和ケアの概念が広まり、終末期の痛みや苦痛を和らげるための医療が充実してきています。自宅での緩和ケアが可能になれば、患者のQOL(生活の質)が向上し、自宅での最期を選ぶ人が増える可能性があります。
4. 個人的要因
- 患者の希望: 多くの人々が自宅での最期を希望しています。家族と一緒に過ごし、慣れ親しんだ環境で穏やかに過ごしたいという希望は根強いものです。病院では落ち着かない、最期を過ごしたくないという方も増えています。家族の下でと考える時代になってきていると実感しています。
- 家族のサポート: 勿論ですが、家族のサポートが重要な要素です。家族が患者のケアに協力し、在宅での看取りをサポートすることが可能であれば、自宅での最期を選ぶ選択肢が現実的になります。その上で、ご自宅でという選択肢につながります。
- 文化的背景: 自宅での看取りは文化的な要素も含まれます。特に日本では、家族が集まり、最後の時を共に過ごすことを重視する文化があります。何かあったら怖いという家族も少なからずいますが、時代的な背景と文化的な要素で、一般的になりつつあります。
5. 課題と対応策
- 医療資源の限界: 在宅医療の拡充には医療資源が必要です。訪問看護師や訪問診療医の不足が課題とはなっていますが、キャリアチェンジとして注目されている職業であることは間違いありません。人材不足を解決するためには、医療従事者の育成と支援が必要であり、国がもう少しバックアップしていく必要はあるでしょう。筆者としては、町医者など少人数で運営しているところでも、育成してくれる医療機関には補助金を出すなどのバックアップは必要だと考えています。
- 家族の負担: 在宅ケアは家族に大きな負担をかけることがあります。介護疲れや心理的なストレスが問題となるため、家族に対する支援策が求められます。MSWやPSWの活用など、家族を支える在宅スペシャリストの育成も必須です。
- 緊急対応: 在宅死が増えれば、緊急時の対応ということで、医療機関には負担がかかります。この難題を解決するのが、訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所です。24時間対応の医療サービスや緊急時の連絡体制を整備することが非常に重要であり、24時間体制、看取り対応の訪問看護ステーションの増加、また、在宅療養支援診療所の普及は必須です。
6. 結論
今後、今以上に自宅での死が増加する可能性は非常に高いと感じています。社会的な高齢化、医療技術の進歩、政策の推進などにより、自宅でのケアが現実的な選択肢となりつつあります。しかし、医療資源の確保や家族の負担軽減など、解決すべき課題も多く残されています。個々の患者や家族の希望を尊重しつつ、社会全体で支える仕組みを構築することが求められます。自宅での最期を迎える選択肢を増やすためには、医療・福祉・地域社会が一体となって取り組む必要があります。