令和8年(2026年)6月1日より施行される診療報酬改定において、在宅医療の根幹を支える「在宅療養支援診療所・病院(以下、在支診・在支病)」の施設基準が大幅に見直されました。
今回の改定のメッセージは明確です。それは、「単に24時間の連絡先があるだけでなく、患者の病態を熟知した医師が責任を持って往診する体制を求める」というものです。これにより、これまで多くの医療機関が活用してきた外部の往診代行サービス(いわゆる往診の株式会社)の利用は、これまでにないほど高いハードルに直面することになります。
本記事では、厚生労働省から発出された最新の疑義解釈資料に基づき、実務上の注意点と、今後求められる自院主体の体制構築について徹底解説します。

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レポートを確認する ≫「往診担当医」の透明化:名前を伏せることは許されない
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改定後の施設基準では、患家の求めに応じて24時間往診が可能な体制を確保するだけでなく、「往診担当医の氏名、担当日等を文書により患家に提供していること」が義務付けられました。
「誰が来るかわからない」体制の終了
これまでは「夜間は提携先の医師が伺います」といった曖昧な説明で済んでいたケースもありましたが、今後は明確な氏名の提示が必要です。
- 氏名の非公開は不可: 患家に対して提供する文書において、担当医の氏名を明らかにせずに説明することは認められません。
- 雇用契約の原則: 原則として、その医療機関で雇用契約のない医師を文書に掲載することは認められません。
- ※連携型機能強化型の場合、連携体制を構築するいずれかの保険医療機関で雇用されている必要があります。
つまり、自院のコントロールが及ばない「外部サービスの当直医」を、あたかも自院の体制として提示することが厳格に制限されたといえます。
「事前の対面面談」が必須要件に:Web会議では不十分
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やむを得ない事由(急な病休など)により、事前に氏名を提供していない医師が往診を行う場合、その医師は往診日以前に「常勤医師と事前に面談を行い、診療方針等の共有」を行っていなければなりません。
ここで注目すべきは、その「面談」の実施方法です。
リアルな対面が求められる
疑義解釈(Q&A)では、以下のいずれかの方法で面談を行うよう指定しています。
- 往診医が当該医療機関を直接訪問して対面で面談する。
- 当該医療機関が開催・参画するカンファレンスに対面で出席する。
この要件により、「オンラインでの顔合わせ」や「メールでの資料送付」だけでは、施設基準を満たしているとはみなされなくなりました。外部の往診代行サービスの医師を単発で利用しようとする場合、わざわざ事前に自院まで足を運んでもらう、あるいは対面の会議に出席してもらう必要があり、運用上のコストと手間が激増することになります。
共有すべき情報の専門性と「電子カルテ」の壁
面談で共有すべき内容は、単なる挨拶や形式的な引き継ぎではありません。医療の安全性を確保するため、以下の3つのカテゴリーについて具体的な共有が求められています。
① 訪問診療患者の具体的な診療情報
特に「直近の訪問診療で病状に変化(増悪)があった患者」や「往診担当日に急変する可能性が高い患者」の詳細な病態、および急変時の診療方針を共有しなければなりません。
② 地域特有の医療提供体制
緊急時の入院受け入れ医療機関の連絡先など、その地域ならではの救急搬送ルールや連携体制を把握している必要があります。
③ 実務上の習熟:電子カルテと物品
実はここが大きなハードルとなります。「当該医療機関における物品(医療材料等)や電子カルテの使用方法」の共有が必須とされたのです。 外部の医師が、自院の電子カルテの操作に慣れていない、あるいはどこに何があるかわからない状態で往診に伺うことは、今回の改定では「体制確保」とはみなされません。
なぜ「往診の株式会社(代行サービス)」の利用が難しくなるのか?
これまで、夜間・休日の往診を外部の企業(株式会社等)に丸投げするスタイルが見られましたが、2026年改定はこうした動きに「待った」をかけています。その理由は主に3点あります。
●理由1:常時1人以下の制限
「事前に氏名を提供していない医師(=事前の面談で対応する外部医)」による往診体制を確保している場合、その医師は常時1人以下でなければならないというルールが追加されました。 多くの医師を抱え、エリアごとに複数の医師を待機させるような大規模な外部代行サービスを、自院の「主たる体制」として組み込むことが難しくなっています。
●理由2:雇用関係と責任の所在
前述の通り、雇用契約のない医師を事前に「往診担当医」として文書提示することはできません。また、外部の医師が往診する際には、必ず自院の常勤医との「対面での診療方針共有」が必要です。これらをクリアするためには、外部の医師であっても、実質的に「非常勤医師」として自院のチームの一員として深く関わってもらう必要があります。
●理由3:「日常的な対話」の有無
驚くべきことに、今回の改定では、「文書で氏名を提供している医師」であっても面談が必要なケースが明記されました。
- 当該機関で訪問診療等に従事していない医師
- 訪問診療に従事していても、常勤医と同じ機関内で日常的に対話をしていない医師
つまり、名前だけ登録されている「幽霊部員的なアルバイト医師」を活用する場合も、改めて対面での面談と深い情報共有が求められるのです。
連携型(機能強化型)におけるさらなる厳格化
複数のクリニックで連携する「連携型機能強化型」の場合、往診経験が豊富な医師(10回以上)や、事前にカルテを閲覧できる医師が往診を担当することがあります。
しかし、こうした「ベテランの応援医師」であっても、例外ではありません。疑義解釈では、そのような医師が往診する場合であっても、「直近の患者病態」や「地域の救急連絡先」「カルテ操作方法」などの共有は必須であると釘を刺しています。
「以前来たことがあるから大丈夫だろう」という慢心を許さず、常に最新の患者情報を共有するプロセスが施設基準として組み込まれたのです。
6. まとめ:自院主体の「顔の見える連携」への回帰
2026年度改定は、在宅医療の「コンビニ化」を防ぎ、本来の姿である「主治医による継続的なケア」を重視する内容となりました。
医療機関が今すぐ取り組むべきアクション
- 外部医師の再契約と面談のルーチン化: 外部の医師を当直に充てる場合は、単なる「外注」ではなく、事前に自院へ来てもらい、電子カルテ操作や患者情報のレクチャーを行う時間を確保しなければなりません。
- 患家向け文書の更新: 往診担当医の氏名を明記し、患者さんが「夜はこの先生が来るんだ」と安心できる文書を作成する必要があります。
- 地域連携の再構築: 株式会社などの広域代行サービスに頼り切るのではなく、地域の近隣クリニック同士で、お互いの患者を熟知し合う「顔の見える連携」を深めることが、最も確実な施設基準の維持につながります。
在宅医療の現場において、24時間の安心感を提供し続けるためには、制度の裏側にある「質」の担保が不可欠です。2026年6月の完全実施に向けて、今から自院の体制を見直していきましょう。

